こういう連載、企画みたいなものをまたウェブでやってみたい、と思ってた。ロック黎明期、
隆盛期に大貢献したアーティスト、音楽の紹介だ。以前GrindHouse magazineで連載
してた“音古改心”、つまり“温故知新”の復刻である。

改めて言うまでもなく、自分はラウドロック、ミクスチャーロック、グランジ/オルタナティヴ
ロック、パンク、メタル、ヘヴィロック、インダストリアル、エレクトロミュージック、ハードコア
などが大好きだ。日頃愛聴する音楽ももちろん、そう呼ばれるスタイル/ジャンルのものが
圧倒的に多い。しかしながら昨日今日そういうスタイル/ジャンルを介して音楽を知り、聴き
始めたわけじゃない。思い返すとゾッとするくらい長く音楽を聴いてる(笑)。聴き始めたとき
当然、そういうスタイル/ジャンルの音楽はまだこの世に産み落とされてなく、極端に言うと
その“原点”“始まり”と言えるスタイル/ジャンルで音楽を知り、聴き、楽しんでた。まぁ、その
頃はまさか、その後だいぶ経ってから自分がこうした、アーティスト/音楽を紹介し、伝え届
けていく仕事に就く、なんてことは夢にも思わなかったけど(苦笑)。

人間なるもの、“生まれ育った環境”っていろんな意味でデカい、って今さらながらに思う。
朝目覚めると、常に音楽が流れてるっていう環境がうちにはあった。クラシック、ポップス、
ロック、そしてシャンソンなどなど…。当時としてはとても珍しい家庭環境で、そのすべてが
いわゆる“洋楽”というのも非常に稀なことだった。「外国の音楽を“洋楽”って言うんだ」って
いうようなことがしごく普通に言われた時代だった(笑)。“ちゃんと聴かされた音楽”という言
い方をして差し支えないだろう(笑)、1番最初はクラシックだった。ベートーベン、モーツァルト、
シューベルト、ブラームス…など。幼稚園から帰ってくると連日デカいコンポーネントステレ
オの前に座らされ、ジュースを飲み、3時のおやつを食べながら聴いてた。しかも聴くだけじゃ
なく、そういう音楽家たちの生い立ちなども教えられ、学ばされた。今思うに、あれは当時の
両親による、いわゆる“情操教育”の一環であり、あのジュースや3時のおやつは幼少の頃の、
右も左もわからないどころか、落ち着きもない自分をステレオの前に座らせ、しばらくそこに
いさせて、クラシックも聴かせ、学ばせる“手段”“誘惑”だったように思える(笑)。そんな毎日の
“日課”のような時間を心底楽しめてたか? というと正直、そんなでもなかったことを今もおぼ
ろげながらに憶えてる(笑)。

いつ、またどういうきっかけで、かはまったく記憶にない
のだけど、ある日ちゃんと聴かせられる音楽が変わった。
確か小学校高学年に差しかかったころだったような気が
する。クラシックからロック、ポップスへ。どうもこっちの
音楽の方に自分は強く反応したようで、それ以来そのス
タイル/ジャンルが中心に。もろ時代を物語るわけだけど、
その当時しょっちゅう耳にしてたアーティストの1人が、こ
のエルヴィス・プレスリーだった。近所に住んでた従兄弟
がもう熱狂的なファンで、部屋んなかがまさに“プレスリー
一色”だったっていうことも強く感化された要因のひとつ
だったように思う。

当時、プレスリーはザ・ビートルズと人気を二分するほど
の“超アイドルスター”だった。従兄弟の部屋んなかのデコ
レーションっぷりがそれを如実に物語ってたし、後に“世界
でもっとも成功を収めたソロアーティスト”との称号も手に
するほどの存在だった。おそらく子供には軽快でノリもよく、
わかりやすかったんだろう。クラシックじゃ感じられなかっ
た高揚感みたいなのも味わわされた覚えがあり、それを機
に家にいるときはほぼタレ流し状態で聴き、楽しんでたのも
記憶にある。このころになるともはや“聴かされてた”じゃなく
“自ら進んで聴いてた”に変わってたようにも思う。プレスリー
のヒット曲は数知れず、だ。なかでも自分は“ハートブレイ
ク・ホテル”、“ブルー・スエード・シューズ”、“トゥッティ・フルッ
ティ”などがお気に入りだった。好きが興じて、後に母親に
連れられプレスリー主演映画のうちの1本で、ライヴドキュ
メンタリーとも言える『エルビス・オン・ステージ』(70年)を映
画館に観にいったこともあるほどだ。

実は自分は、まともにザ・ビートルズを通ってない。“かじり聴き”がせいぜいのレベルでしか
ない。ザ・ビートルズよりプレスリーの方が絶対的な存在だった。つまり自分にとってのロック
へと埋没し、虜となっていくその最初の一歩がこのプレスリーであり、ロックという音楽の基本
中の基本がこのプレスリーなのだ。もし仮にプレスリーが登場してなかったら、その後出現して
なかった、存在もしてなかったアーティスト、音楽が数多あると断言もできる。初期のプレスリー
をわかりやすく知れて、かつ安価という手にとりやすい価格ということもあり、この『エルヴィス・
プレスリー登場!』をお勧めする。プレスリーの名は聞いたことがあるだろうし、その音楽も実は
映画やTVCMなどを介して1度や2度耳にしたこともあるハズだ。普段今のロック、つまりモダン
なロックを聴く人たちにとって、“身近にいつつも実はちゃんと知らない、聴いたこともないアー
ティスト”の代表格が、このプレスリーなんだと思う。
ロックの“原点”であり“基本”でもあるのだから。


文・有島博志 / text by Hiro Arishima

 ELVIS PRESLEY
 『エルヴィス・プレスリー登場!』/『ELVIS PRESLEY』
 1956年作品