『TEMPER TEMPER』発売記念 <RIOT IN TOKYO 2013> スペシャル・ギグ終演後、数十分
してから恵比寿LIQUIDROOMの楽屋裏にお邪魔した。おそらくみんなが思う以上に、この会場
の楽屋裏はコンパクトだ。大きな部屋ひとつと小さな部屋が3つ。ひとバンドによる単独ライヴの
場合は、そのバンドが大きな部屋をドレッシングルームとして使う。この夜のBULLET FOR MY
VALENTINE(BFMV)が、まさにそうだった。逆に今年からLOUD & METAL ATTACKへと改名し
たFINLAND FEST~METAL ATTACKのように出演バンドが複数いるときは、全バンドがその大き
な部屋を共有するため人口密度が一気に高まり、動くのもままならないっていうような環境になる。
楽屋裏へと通じるドアを開け、なかに一歩踏み入れた瞬間、「あ、ゲストの人たち少ないな」とピン
ときた。あたりがシ~ンと静まり返ってた、って言うと少々大げさかもしれないけど、それに近い雰
囲気を感じたからだ。

で、通路を進み、大きな部屋の入口のところに立った。なかを覗くとメンバー全員にツアーマネー
ジャー氏、そして日本人ゲスト3、4人の姿が目のなかに飛び込んできた。次に目がいったのが、
マット(vo,g)だった。部屋の隅に置かれてる長めのソファに深く身を沈め、目を閉じてる。見るから
に疲労困憊だ。よっていきなりマットのところにいくのは止め、まだ元気ハツラツそうに見えた(笑)
パッジ(g,vo)、ジェイ(vo,b)、ムース(ds)らとしばしの立ち話に。みな缶ビールを片手に、時折飲み
つつにこやかに応じてくれた。話を前日の取材や写真撮影に協力してくれたことへのお礼を述べ
ることから始め、その夜のライヴのことはもちろん、オーストラリア、日本の前にアメリカ各地をプ
ロモーションで巡演、ファンたちと交流し、移動スケジュールはかなりキツかったものの、とても有
意義で楽しい時間を過ごすことができた、っていうことにも及んだ。そして、みな「明日ようやく地元
に帰れるんだ」と嬉しそうに口を揃えた。「今晩、なぜ“Riot”を演らなかったの?」とはあえて訊かな
かった。返ってくる答えがわかってたからだ、「わからない」って。BFMVとはそういうバンドなのだ。

正直、立ち話をしてる間も時折気持ちはマットの方にいってた(なんて失礼なヤツなんだ!:苦笑)。
で、マットが目を開け、ソファから立ち上がったタイミングで、偶然にも話がひと段落したんで3人の
ところからす~っとフェイドアウトし、マットのところに。そして「今晩のライヴめちゃくちゃ楽しめたよ、
ありがとう!」と向けた。するとニコッと笑って、「それはよかった」。だけど再びソファに座り、押し黙っ
てしまった。「かなり疲れてるようだね?」と振ると、「アメリカ、オーストラリア、日本ってずっと移動
の連続だったし、時差ボケもけっこうきてる。昨日、取材の後、食事にはいったけど、それからすぐ
に寝ちゃったからね」と言い、ふぅっとちっちゃく溜息をついた。それからは説明するまでもないだろう、
話を向けても返ってくる答えは短く、会話がプツンプツンと切れるという1番盛り上がらないパターン
に陥った(滝汗)。だけど、訊いた。「なぜ、“Riot”を演らなかったの?」と。すると、ソファの前にあるデッ
カいテーブルの上に無造作に置かれた、ボツにした、マットの手書きによるその夜のセットリスト候補
数枚を指さしながらこう言った。

「今晩演りたいっと思ったセットリストのどこに入れようにも座りが悪くて、なんかフィットしな
かったんだよね」


再び言葉少なだった。盛り上がらない云々はもう別にして、これ以上話を続けるのは失礼だし、申し
訳ないと痛感し、グループショットを数枚撮らせてもらい、「じゃまたサマソニで!」とみんなに言い、再度
握手をし、部屋を後にした。そのときの写真の1枚が、ヘッダーにあるものだ。マットが眠そう…疲れが
表情に出てるのは明らかだ。

連載前回に書いた。その夜のライヴを観てる最中、「マット変わったなー」と思わされることが何度か
あった、と。なかでも強く思ったのが、歌唱法の変化だ。前回の来日(2010年9月に実現したBRING
ME THE HORIZON、CANCER BATSとの共演ギグ。連載第1516回参照)のときはそうは感じな
かった。ノドを患い、手術を受けてからしばらく経った後、マットはこう語ったことがある。

「完治はしてるんだけど、もう前と同じ声は出ないんだ。歌ってる最中にノドの筋肉の動きに
違和感があるんだけど、今後これにも慣れていかなきゃいけないんだ」


つまり、それに慣れた上での歌唱法の変化なんだろうか。前日の取材で偶然その話を聞いてた。

「確かに慣れはしたけど、声に関しては毎日気にかけてるよ。もう2度とノドを痛めることはない
なんていう保証はどこにもないから。だけど、そういったことを日頃意識してるからこそ、よりよ
いシンガーになれたんだと思う。ちゃんと歌わなきゃっていう想いも強い。ここ数年間、ヴォーカ
ルトレーニングをきっちりやってきた。一定のやり方に慣れないように、周期ごとに新しいトレー
ニング方法を取り入れたりもした。だから最悪な状況からポジティヴなものを勝ちとることができ
たんだ。ただ、ライヴはその都度状況が異なる。それってシンガーには悪夢でね。いつ、なにが
起こるかホントわからないから。ウォーミングアップをしっかりやり、ライヴ前はよかったのに1曲
目を歌い出した瞬間、めちゃくちゃ調子が悪くなることも普通にある。反対にウォーミングアップか
ら調子が悪く、ノドがヒリヒリしてたのにステージに上がったら1時間半、絶好調で歌いっぱなしっ
ていうときもある。どうなるか、まったく予想がつかないから、今じゃウォーミングアップをやったら
それ以上は考えないようにしてる。ライヴってどのみちひとつとして同じなのはないから。だけど、
まぁ、緊張感があってイイんじゃない?」


「毎日気にかけてる」って、主にどういうことを?、と続けた。

「オフの日はもう完全に休みにし、ウォーミングアップすらしない。そして脱水しないように気をつ
ける。そういう意味じゃ酒はよくないんだ。だから今晩は酒は飲まない(苦笑)。こまめな水分補給
が大切で、クラブにはいかず、混んでるバーで数時間過ごして大声を出すようなこともしない。
オフの日は映画を観たりしてリラックスする。そのぐらいだよ、気をつけると言っても」


マットの精神面の強さが改めて顔を覗かせる。「最悪な状況からポジティヴなものを勝ちとることができた」
という発言が、それを端的に表している。担当医とヴォーカルコーチから「もう前の声は出ない」とシンガー
として絶望的な宣告を受け、歌唱法を変えることを余儀なくされ、歌ってる最中の筋肉の動きにも慣れてい
くことで、マットがシンガーとしてさらに成長してることが、その夜のライヴでハッキリと見てとることができ
た。さすがである。


次回に続く…(2013年3月26日更新予定)